MAMORUGUMI COLUMN

「何もなかった一日」に、
どれだけ気づけるか。

社員から借りた一冊が教えてくれた、日常を深く見るということ

読書と仕事
沢木耕太郎著『チェーン・スモーキング』新潮文庫の書影
社員から借りた一冊。沢木耕太郎『チェーン・スモーキング』(新潮文庫)

前回のコラムでは、富士警備保障の社員たちが筋トレとともに読書にも取り組むようになったことを書きました。

その後、読書を始めた社員から一冊の本を借りました。沢木耕太郎さんの『チェーン・スモーキング』です。

読書を勧めていた私が、今度は社員から本を借りる。教える側、教わる側という関係は、案外あっさり入れ替わるものです。こういう変化が社内に生まれたことを、うれしく思います。

そして、この本を読みながら、自分自身に問いかけたくなりました。

私たちは毎日、いろいろな出来事に出会っている。
それなのに、なぜ「今日も何もなかった」と思ってしまうのだろう。

特別な出来事より、何気ない出来事の奥にあるもの

『チェーン・スモーキング』は、日常の出来事や人との出会いから思索が広がっていくエッセイ集です。新潮社の書籍紹介でも、古書店や深夜のタクシーなどを舞台にした15篇が収められていることが紹介されています。

私が心を引かれたのは、題材の身近さでした。偶然乗り合わせたタクシーの運転手との会話。古本屋で目にした一冊の本。私たちにも起こり得る出来事が、立ち止まって見つめることで、奥行きのある物語になっていきます。

同じ場面に居合わせても、私は「そういうこともある」で通り過ぎてしまうかもしれません。しかし、そこで気になった言葉を拾い、人の背景を想像し、自分の経験と重ねて考えてみると、見えてくるものが変わるのです。

毎日に物語がないのではなく、私がその入口を見過ごしているのかもしれない。そんなことを考えさせられました。

慣れることと、考えなくなることは違う

毎朝、同じ時間に起きる。同じ道を通り、仕事をして、家に帰る。こうした繰り返しは生活の土台ですし、仕事に慣れることは、落ち着いて行動できる強みにもなります。

ただ、「いつもと同じだから」と考えることまで省いてしまうと、小さな変化が目に入らなくなります。昨日まで気にならなかったことにも、今日は立ち止まって考える理由があるかもしれません。

もちろん、一日に起きた出来事をすべて掘り下げることはできません。朝食の味噌汁から帰り道の信号まで考え込んでいたら、日が暮れてしまいます。

それでも、一日に一つならどうでしょうか。心に引っかかった言葉、いつもと違った表情、少し戸惑った場面。そのどれか一つを、すぐに片づけずに考えてみる。洞察力を養う入口は、そんな小さな習慣にあるように思います。

「気づく力」は、警備の仕事にもつながる

これは、私たちの仕事にも重なります。警備の現場で大切なのは、目の前の状況をよく見て、その変化が何を意味するのかを考えることです。

例えば、歩行者が急に立ち止まったとき。進む方向に迷っているのかもしれませんし、こちらの誘導が伝わっていないのかもしれません。車の動きがいつもと違うときも、その先の混雑や見通しなど、確認すべきことがあるはずです。

ただし、想像したことを事実と決めつけてはいけません。まず見る。なぜだろうと考える。必要なら声をかけて確かめる。そして、安全な対応につなげる。この積み重ねが大切です。

「今日も事故がなかった」という報告も、その一言で終わらせずに振り返ってみると、誰かの早めの声かけや、隊員同士の連携、危険に気づいた一瞬が見えてくるかもしれません。

何も起こらなかった一日にも、
何かを起こさないための仕事がある。

その仕事に気づき、言葉にし、仲間と共有できれば、経験は次の現場を支える力になります。

本を閉じたあと、自分の日常を開いてみる

読書は、知識を増やすだけのものではないのでしょう。ほかの人のものの見方に触れ、自分が当たり前だと思っていた景色を、もう一度見直すきっかけにもなります。

今回、社員から借りた本は、私にそのきっかけをくれました。自分自身について。日々の出来事について。そして、取り組んでいる仕事について。今一度立ち止まり、もう少し深く考えてみようと思います。

社員に読書を勧めたことから始まった小さな変化が、今度は私の考え方を動かしてくれた。本が一冊、人から人へ渡っただけで、こういうことが起こるのです。

富士警備保障を、年齢や立場にかかわらず、お互いから学べる会社にしていきたい。学んだことを、自分の人生にも、仲間にも、現場の安全にも生かせる会社でありたいと思います。

今日、心に残ったことは何か。なぜ、それが気になったのか。そこから、明日できることは何か。

一冊の本を閉じたあと、
今度は、自分の日常を開いてみる。
いつもの一日にも、まだ気づいていない物語があるはずです。

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